第四話
著者:shauna


 温泉に来たのだから当然最初に風呂に入った。
 
 そして、その後で、ミーティアとアスロックとサーラとファルカスとシルフィリアとアリエスの6人は市内を散策し、土産や名産品に舌鼓を打っていたわけだが・・・

 その後の楽しみと言えば当然、夕餉である。

 畳という藁のようなものを編み込んだ固い床に足のない木製の椅子と妙に平らなクッション―座布団というらしい―に腰掛けながら長いテーブルに次々と出てくる料理達はまさに圧巻の一言だった。

 船の形をした容器に大きな鯛の頭と大根を糸のように切ったツマと呼ばれるものを置いて、その上にこれでもかと言うほど魚の刺身を乗せた“舟盛”という料理や、野菜を菊の花に飾り切りしてそこにスープを注いだ菊花信条という“お吸い物”と呼ばれるスープ。様々な野菜を油で揚げた“天麩羅”や一人一人に小さな鍋がセットされ、その中で香ばしく焼かれた“すき焼き”等、どれも見たことのない上に非常に美味なものばかりだった。


 うん・・悪くない・・


 ドローアの顔にも自然と笑顔がこぼれていた。
 
 ミーティアが来たがっていた理由も何処となく分かる。

 ガラスの代わりに格子に紙を張っただけの障子という窓や、紙を張り合わせて作る襖。庭は噴水とかそういう鮮やかの物は一切無く、石と模様の入った砂で出来た庭に川が一本流れているだけ・・時折、竹で出来た筒が注がれた水を吐き出すように傾き、コーンと甲高い音を立てていた。

 一言で言ってしまえば味気ない。でも、なんだかとても風情を感じる。空に輝く月も星も、いつもよりも輝きを増しているように見えた。

 最初は戸惑いも感じたが、慣れてくると確かにこれは精神と体を癒してくれる。

 そんな風にドローアは思ったのだ。

 父親の手伝いだかなんだかで来られなかったマルツ君がかわいそうでならない。


 だが、一時間も経つと・・・


 状況が料理を食べる事から酒を飲む事に移行し出した辺りから、何やらヤバい空気は立ち込め始めていた。


 そもそも、今、皆が飲んでいるのはドローアも見たことの無い酒だった。

 どうやらこの都市の名産品らしいのだが、白く濁ったそれは明らかに良く目にするカクテルやビールやワインなんかといった酒とは異なる種類の酒である。

 その証拠は酒瓶のラベルを見ればすぐにわかる。 

 ドローア自身がよく見かける酒のボトルと言えば、トライアングルとかディープブルーとかその他リキュール類やジザベル・ヌーヴォ等が主流である。でも、今テーブルの上に並んでいる酒は・・・



 米焼酎“魔笛”、芋焼酎“琥珀”、清酒大吟醸“龍翠星”


 ・・・どれも見たこともない酒・・というより、ジャンルすらよく分からない酒ばかりだ・・。


 しかも、先程裏を返してみた時、アルコール度数が40を超えていたような気が・・・

 そしてそこにさらに追い打ちをかけるのはこの旅行と言う楽しい空気と日頃のストレスや鬱憤である。


 何が言いたいかと言うと、これだけたくさんのトラップが重なれば当然・・・












 






 「ぅわははははははははははははははははは!」

 「いひひひひひひひいひひひひひひひひひひひ!!」

 「ぎゃはははははははははははははははははは!!!」

 「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」


 気が付けば第一の地獄絵図は出来上がっているわけでして・・・

 最早誰がどんな風に笑っているのかすら分からない・・というか、せめて誰か一人でも素面が居た方がいいと思って酒に口を付けなかったドローアにしてみれば何が面白くて笑っているのかまったくわからない。

 「ほら!アスロック!なんか芸!芸しなさい!!王女命令よ!!」

 そう叫ぶミーティアの左手にも美しい青のガラスで作られたコップが握られており、その中には並々と透明な酒が注がれている。

 浴衣なんてもう肌蹴けまくってて、鎖骨どころかもう少しで完全にヤバい部分まで丸見えだってのに本人はまったく気にすることもない・・。さっきまでのモジモジしたミーティアはどこに行ってしまったのだろうか・・ってか、それを誰も注意しないこの状況は明らかにヤバい・・ヤバすぎる・・

 よく理性を失った時に、ネジとかタガが外れたと表現することがあるが、それ以外にもいろんなモノが外れてしまった様子の6人の宴は一向に収まる気配を見せなかった。

 唯一飲んでいなかったアリエスもあまりの現状に言葉を失っている。ってかどうしようもないだろ・・これは・・ってな感じだ。

 「じゃあ、まずはこの俺!!アスロックが!!!」

 何処から出したのかしっかりとマイクまで握ってアスロックがステージに立つ。



 「モノマネするぞ!!」

 「よし!やれ〜!!とくとみんなに見せてやれ!!」

 ああ・・ミーティアさま・・ついに言葉使いまで・・・

 「まずはファルカスのマネだ!!!」

 そう言うとアスロックはいつにも増して険しい表情を作る。



 「『つまりは、暗殺か・・・』」

 「ぎゃはははははははは!!!」
 「あははははははははは!!!」

 いや…まったく似てないんだけど・・・・・どうやらもういろんな回路が壊れているらしい。・・・5人全員・・・・

 しかも、その似て無いのがまた笑いを誘うらしく・・・

 それに、今この面々に正常な判断力を期待するのはそれだけで不可能なことだろう。

 「じゃあ、次、私!!!」

 そう言って立ち上がったのはミーティアだった。




 「いくわよ〜!!私のかくし芸!!聖魔滅破斬(ワイズマンブレード)いっきまーす!!」


 え!えぇ〜!!!

 「そう言うことなら負けませんよ〜」


 いきなりの声にドローアが慌ててふりかえった。立ち上がっていたのはシルフィリアだ。ただ、目の前の膳にはもう十数本のとっくりが並んでいるような・・・

 

 「私も隠し芸で〜す!!星光の終焉(ティリス・トゥ・ステラルークス)やりま〜す!!」



 ちょっとーーーーー!!!!!!!

 「2人とも待ってください!!そんなことしたら旅館が!!いえ、二人でやったら世界が吹っ飛びます!!」

 「え〜」×2・・・

 ドローアは慌ててアリエスに救援の目線を送った。

 そして、一瞬は目が合ったモノの・・・

 アリエスはスッと眼をそらした。

 

 あれ?・・もしかして私・・見捨てられた?


 「3番サーラ読心術やりま〜す!!えっと〜今のアリエス君の心境!!『ごめん、ドロ〜ア・・でも、シルフィーがこうなると誰も手を付けられないから・・・』だそ〜で〜す!!」


 「汚ね〜ぞアリエス!!」
 「そうだそうだ!!シルフィリアを見捨てるな〜」

 野次を飛ばしたのはファルカスとアスロックの仲良しコンビだ・・・

 あ〜ぁ・・2人とも見事に出来上がっちゃって・・・・

 「では、次は私が〜・・・」

 不意にまたドローアの後ろから声がした。

 見ればシルフィリアがまた立ちあがっている。

 でも、普段の彼女からは考えられない程目が泳いでいて、まるでなんか危ない薬でもやった後みたいだ。

 しかも、膳の上のトックリはさっきよりも増えてるし・・・

 「4番シルフィリア〜・・・・」

 ヤバい・・これは絶対なんか犯罪的な事をしてしまう人の目だ。

 この状況でいちばんしてはいけないことってなんだろう・・・

 まさか!!!あれか!!あれをするつもりか!?

 そして、そんなドローアの思想は見事に当たることになる。



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